解説記事:「メディアの中の生命科学」2006年.pdf
概要:日本の多くの消費者は「遺伝子組換え食品」を拒否している。安全性に問題があるという印象ももっているからだ。しかし、遺伝子組換え食品の安全性に関する研究論文(1次情報)を読んで判断したわけではない。「遺伝子組換え食品」を拒否する本当の理由は、「安全性」ではなく、“悪いイメージ”や“価値観”を抱いているからだ。誰が
“イメージ” や“価値観”を植えつけているのか?
メディア(3次情報)である。科学技術だけでなく、生活全般にわたり、人々はメディアの流すイメージ(と情報と“価値観”)に支配されている。自分の好み・センス・考え、“アイデンティティ”や“個性”までもメディアに支配されている。もちろん、家族・友人・学校教育・職場の影響を受けるにしても、その時代の影響を受けるということはメディアに支配されているとも言えるのだ。
つまり、人間の考え方、好み、生活様式、人生計画のほとんどは自分のリアルな経験もあるが、バーチャルなイメージ(と情報と“価値観”)、つまりメディア、に大きく影響を受けている。生命科学技術に限って論じよう。一般大衆にとっては、メディアが生命科学をどう描くかが根源的に重要である。生命科学者にとっても、メディアが社会と生命科学との関係をどう描くかで、研究テーマの重要性(研究費やポストに影響)が決まってくるので根源的に重要である。国家にとっても、生命科学の高等教育(人材育成)、医療・食糧・バイオ産業・バイオ安全保障などの国家戦略に根源的に重要である。
メディアが生命科学をどう描くか、メディアが生命科学をどうねじ曲げているのか(あるいは、ねじ曲げていないのか)を、主観ではなく、科学量論的に、生命科学者の誰かが研究し続ける必要がある。科学量論的な研究をすることで初めて、メディアのあり方やメディアのコンテンツ(内容)に対する議論を、主観ではなく、科学の領域に押し上げて、バイオ研究者側から「あるべき姿」を提示できる。
私たちは、今までメディアとして映画と新聞を分析した。ゲーム、イラスト、テレビ、インターネットも分析している。
また、生命科学用語についても研究している。メディアの影響を受け、生命科学用語が混乱し始めている。言葉は科学技術の土台である。現状を理解し、何らかの規制やルール、監視組織を作らないと、生命科学用語の混乱が根を張ってしまう。言葉の混乱・ゆがみは、その上に構築する科学技術をゆがめてしまう。まず生命科学用語をしっかり研究し、その分析に基づいた対策を立てる。このことは、日本にも世界にも必要に思える。